インディークリエイターインタビューリレー

インディ開発者の声

近年、インディーゲームが注目を浴びていますが、そのゲームの内容はもちろんのこと、制作者のバラエティに富んだインディーズという生き方にも注目が集まっています。

そこで福岡インディーゲーム協会監修のもと、インディーゲーム制作に関わるクリエイターへのインタビューを行い、制作に至ったストーリーや作品に込めた想いを掘り下げていきます。

記念すべきインタビュー第1回目は、福岡インディーゲームエキスポ2024で来場者の人気投票で1位を獲得した、MercuryStudio様です。(全3回)

第1回

まずは、お名前と現在の肩書きを教えてください。

   MercuryStudioと申します!
   個人でゲーム開発者をしています。

ゲームの開発を始めたきっかけをお聞きしてもよろしいですか?

   もう11年くらい前になりますが、当時20代前半くらいで無職になりまして。
   特に職歴もないし、学歴があるわけでもないし、ここから中途採用で仕事を探すのも、結構しん
   どいなと。
   ゲームを作るのに興味があったので、やるだけやってみるかという流れでした。

   時代的にスマートフォンアプリとかを個人で作ってる方々に勢いがあった時代だったので、「ス
   マホアプリでゲームとか作ってみようかな?」みたいな。
   そういう軽いノリで個人事業を立ち上げたっていうのがきっかけになります。
   今にして思うと、本当に何も考えてなかったなっていうのはありますね

それまで開発経験はなかったっていうことですよね?

   RPGツクールみたいな環境でちょっとしたゲームを作ったことはありましたが、それくらい
   です。
   趣味でデザインやCGとかの勉強はしていたのですけども、プログラミングは学校でHTMLを触っ
   たくらいしか経験がなくて。
   ちゃんとゲームを作ろうと思ってUnityの勉強を始めた感じです。

   いわゆるインディーゲーム開発者によくある、元々ゲーム会社とかIT会社にいて、それから独立
   してみたいな、そういう形ではありませんでした。

▲2014年配信 初代BREAK ARTS

インディーゲーム開発を選んだ理由とかって何かございますか?

   これは先ほどの話ともちょっと関わってくるんですけども、一つは自分でやるしかなかったって
   いうのもあります。
   もう一つは自分が思い描く、創りたい作品っていうのが心の中にあったからですね。
   会社に入ってしまうと、どうしてもチームワークになってしまいます。
   だったら1人でやって自分が好きなものを作った方が幸せだよな、っていう気持ちはありまし
   た。

最初から作りたいものがあったということでしょうか?

   ありましたね!
   最初は今ほど世界観とかを作り込んではいないのですけど、漠然とこういうゲームを作りたいな
   という気持ちはありました。

世界観がどのようにつくられたのかは気になりますね。後からそのあたりも深掘りができたらと思います。インディーゲームは、個人で開発をされると思うんですが、最も魅力的なのはどういうところだと思いますか?

   何点かありますが、最もという話になると、”自分が好きなものを作れる”ということに尽きるの
   かなと思います。
   全ての権限を自分が持ってるので、良くも悪くも全ての責任を負うことができます。

▲2018年配信 BREAK ARTS II

開発中に直面した最大のチャレンジはなんでしょうか?

   やはり資金面かなと思います。
   ゲームの開発が終わる前に自分の生活が終わるんじゃないかみたいな。
   来月の生活費が払えない、どうしようみたいなことが何度かありました。

   特に事業を興して最初の数年間は、本当に資金繰りが厳しかったんですよ。
   今はもうやってないんですけども、途中で講師の仕事に入ったりとか、あとは参考書を書いてく
   れないかっていう話があったりとか、そういうちょっと副業的なことをしつつ生活を維持してい
   たことはありました。

   本当にここ近年になって、ギリギリ1年くらいは生きていけるかなみたいな感じになりました。
   (※取材時点)

次はプロジェクトについてなんですが、『BREAK ARTS III』の概要を教えていただけますか?

   タイトルの通り、今回はBREAK ARTSシリーズの第3作目になります。

   BREAK ARTSはロボットゲームで、一番の特徴的な部分っていうのが、ロボットでレースゲーム
   をするというものになります!
   加えて、自分のマシンを自由にカスタマイズするというのも特徴の一つになります。
   回を重ねるごとにそのカスタマイズもパワーアップしていて、今回の3作目は過去最高のとんで
   もないカスタマイズができるようなゲームになっています。

   例えば2作目の段階で、もうプレイ時間が1,000時間、2,000時間とかに、なってる方もいらっ
   しゃいます。
   それくらいのやばいカスタマイズ性のあるゲームということですね!

   さらには、今までのバトルレーシングというジャンルを捨ててしまって、ロボット総合競技とい
   うジャンルにしています。
   レースだけではなく、シンプルにアクションゲームとして遊んだり、幅広い遊び方ができるよう
   な作品になっています。

▲最新作となるBREAK ARTS III

このゲームのアイデアの出発点を教えていただけますか。

   元々私がロボットものが好きだったのと、レースゲームも好きだったことです。
   実際、PS1で一番最初に買ったゲームはレースゲームでした。
   自分が好きなものを合わせたら面白いんじゃないかなっていうシンプルなアイデアです。

開発過程でのエピソードや工夫した点はございますか

   基本的にMercuryStudioは私がワンオペでやっているので、1人でできる作業量に限界があるん
   ですね。
   ですから、シンプルな物量勝負に持ち込んじゃうと、どうしてもその他のゲームに勝てないとい
   うのがあります。
   なので自分が使える時間の中で、見かけ上ゲームのコンテンツ量というか、物量を多くする方法
   はどうしたらいいんだろうというところから、先ほどのカスタマイズのシステムが出てきていま
   す。

   一例を挙げますと、『BREAK ARTS II』から採用してるカスタマイズで、モジュール式カスタマ
   イズというものがあります。
   小さなパーツをたくさん用意して、それをロボットの基本的なフレームに自由にくっつけるみた
   いな、そういう方式を採用しています。
   マシンのカスタマイズをする際に、胴体を丸ごと組み替えられるようにすると、胴体を作るって
   いうのは負荷の大きい作業になってしまいます。

   一方でモジュール単位であれば、私が作るのは小さな部品だけでいいので、作業時間が短くて済
   むんですね。
   加えて、プレイヤーの皆さんが細かく自分の理想のマシンが組めるというシステムになっていま
   す。
   そういう部分で工数を削減しつつ、ゲームとしての厚みを出すみたいなことはやってます。

続いて開発について、もう少し深掘りができたらと思います。開発において苦労された点ってございますか。

   デザインは多少は触れていましたが、プログラミングや実装部分が全然わからなくて。
   コードとかほとんど書いたことがない状態から、前例がないものを作らなきゃいけないというの  
   は苦労しました。

   よくあるタイプのゲームでしたら、ある程度ネットや書籍を探せば、近い資料があるんですけ
   ど、前例のないものを作ろうとすると、1からやらないといけません。
   そこをどうやって作るかが、一番ハードだったかなっていう記憶はあります。

インディーゲーム開発者のあるある話があれば、お聞きしてもよろしいですか?

   ちょっと他の開発者さんがどうなのかわからないので、私の妄想の話にはなりますがいいです
   か?

   1週間ぐらいお店の店員さん以外と口を利かないとか!
   ずっと籠もっていて、買い出しに行く以外はずっと作業してるので、誰とも喋らないことはある
   あるなんじゃないでしょうか。
   1日十数時間以上作業に没頭していて、友達と話す時間ももったいないと思ってしまうときがあ
   りますね。

具体的には特にこの時期が忙しいというのはありますか?

   リリース直前もですが、リリース後の方が忙しい場合が多いですね。
   (リリース後に)フィードバックをたくさんいただけるので、その対応に追われる感じです。
   なので発売した後は、しばらくは毎日アップデートする、ということはあります。

   今回はリリース前に1日くらいはお休みをとって、体力を回復してからリリースしようかなみた
   いなことは思ってたりします。

次にコミュニティからのフィードバックについてお聞きしてもよろしいですか?ポジティブなフィードバックと、ネガティブなフィードバックについて、どのように対処をされるのでしょうか?

   ネガティブな話からすると、BREAK ARTSシリーズについて、特に『BREAK ARTS II』のとき
   は、「カスタマイズはめちゃめちゃ面白いんだけど、メインとなるゲームのところがちょっとな
   んか、若干おざなりだよね」みたいな意見を散見することがありました。

   ですから今作『BREAK ARTS Ⅲ』では、ゲームシステムの部分はかなり力を入れて作っていま
   す。
   実際、先日ファンの方にテスターを頼んで、今遊んでいただいているのですけども、「これまで
   の作品と比べてゲームの根幹的な部分がすごいことになってる」だったり、「レベルの上がり具
   合がすごいですね」みたいなコメントをいただけています。
   『BREAK ARTS II』のときに「ちょっとメインの部分がアレだな」って思った方にも楽しんでい
   ただけたらいいなと思っています!

   ポジティブな話をすると、BREAK ARTSシリーズっていうのは結構長くて、10年ぐらい続いて
   るシリーズなんですね。
   10年も続いていると、やっぱりファンの方も結構増えてくるというのがあります。
   嬉しいことにとても熱量の高いファンの方もいらっしゃるんですよ。
   先日大阪でゲームパビリオンJPというイベントがあったんですけども、そのときは日本各地から
   ファンの方が集まってきてくれて。
   謎の私のブースの周りに6,7人ぐらいファンの方が溜まってるみたいな

   他の開発者さんから、「なかなかそういうことはないよ」みたいな話を聞いて。
   インディーの皆さんってこういう感じになるんだろうなと私は思っていたのですけども、割と特
   殊なケースらしいので私は幸せ者だなと。

▲さらに進化したカスタマイズシステム

だってプレイ時間が1,000時間とか2,000時間もプレイされてる方がいるということですもんね。

   生活との両立をちゃんとしてね。ってちょっと思ってます

   自分の青春はBREAK ARTSだったんで、みたいな方もいらっしゃいます。
   他にもBREAK ARTSをきっかけに、そこからゲーム業界に行きたいって思ったそうで、そのあと
   実際にゲーム会社で働いてるって方がいますね。


すごいですね。人生を変えてしまうようなゲームということですよね。

   いやー、恐ろしいですよね。
   恐ろしいですけど、でも同時にエンターテイメントの力っていうのが身にしみたエピソードでも
   あります。
   エンタメって、人によってはネガティブな印象を持たれることもあるとは思うんですけども、エ
   ンターテイメントによって救われることって、私はあると思います。

   東日本大震災があったじゃないですか。
   あのときにACのCMをネタにした動画がネットで流行ったんですが、その中で動物のキャラクタ
   ーがロボットに変形する動画がいっぱい出たんですね。
   その中で、3DCGのマンボウが変形する動画があるんですけど、あれ私が創ってて。

   当時は本当に何も考えてなくて、「なんか面白いもんがあるな、乗っかったろ」くらいしか思っ
   ていなかったです。
   ところがいざ作って公開したら、とてつもない再生数になってしまいました。
   実際に被災された方からもコメントが届いて、「震災があって、すごく不安なときにこの動画を
   見て、めっちゃめちゃ笑って、ちょっと元気になりました」みたいな。

第2回へ続く(全3回、8月24日公開予定です)

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