マーケティング考察 – 「Only Up!」”賛否両論”なのに売れている? プレイの視聴者が居るか居ないか、立場で変わる評価

やりこみ記事

 「Only Up!」はパルクールのようにただひたすらオブジェクトを登っていく3Dジャンププラットフォームゲームです。建物を、物理を無視して浮いているモノを、高みを目指して上へ上へ登り続けます。

Steam:not available
あなたはゲットーから来たティーンエイジャーのジャッキーで、貧困から抜け出し、世界と自分自身を知る旅に出たいと思っています。 世界は間違いなく狂っていますが、それは決して正常ではありませんでしたが、おそらく今がチャンスです。 危機は行動と決断の時です。ただ、怖いのは、それぞれの一歩があなたを大きく後退させてしまう可能性が...

見上げてもゴールの見えぬほどだというのに、足を滑らせ落ちれば、途中でうまく足場に着地できなければスタート地点まで戻ることに…1ミスが命取りとなるので常に緊張が続きます。

 本作のゲーム性は日本プレイヤーに“壺おじ” / “壺男”の名で親しまれている「Getting Over It with Bennett Foddy」と似ており、既に実況・配信者の悲鳴が響いています。

Steamストアページで公開されている動画0:49付近で”壺おじ”のオブジェクトが見られ、インスパイアされていることがわかります。

 さて、本作は我々のサイトのインディゲームランキング記事にて
2023/6/03~6/09:⑩位(初登場)
6/10~6/16:⑨位
6/17~6/23:③位
と、発売からしばらく経って躍進を見せました。この間、追加のセールは実施されておらず、かつアップデートは調整や不具合修正などの細かな範囲のみです。その条件下でどんなふうにして売れているのか。そのポイントを筆者なりに少し解析してみました。(主観を含みます。)

 何より気になる点は、このゲームのSteamレビュー総評価が賛否両論2023/6/24時点のままいまだ勢いよく売れていることです。
製作者のSC-KR Gamesは現在Steam上で出している作品が本作Only Up!しかなく、言わばブランド力が少ない状態からゲームを発売しました。ブランド力はゲームの売り上げ、あるいはそもそも【こんなゲームがあるんだ、と認知されること】に大きく関わりますから、それがほぼ無い中で賛否両論というのは通常ならばインディゲーム製作者にとっては手痛い評価です。

 寄せられているレビュー、特に否のレビューに着目すると、このゲームの評価は「プレイヤーが”あること”をしているかどうか」で大きく分かれている傾向にあります。それは自分のプレイのようすを他人と共有しているか。身近に言い替えると、実況動画投稿や配信をしているかどうかということ。

本作ではいわゆる初見殺し(⇒ゲームの仕様であるが、プレイヤーならば誰もが一度は引っかかるようなイジワルな要素)が存在し、なんと何時間単位のプレイが全てリセットされるという人も続出。数々のプレイヤーを絶望に叩き落としました

ちなみにですが中間セーブのようなものはありません。本当に全てリセット同然です。

その際実況や配信動画であれば、投稿者が落胆するさまを見て視聴者は愉悦に浸る、という構図が生まれます。ちょっとかわいそうかもしれませんが、そうした愉悦も動画を楽しむ1つのコンテンツとなります。実際に切り抜き動画としても上がっているようですね。

特に大手の企業VTuberであれば”箱推し“が愉悦に関係してきます。
箱推しとはある1つのグループのメンバー全員が好きであることで、企業VTuberを例にするとその企業内の全VTuberを推すようなことを指します。
箱推しにあたって、「同じゲームの配信を(異なる配信者で)何度も見る」という状況が発生します。最初に見た配信こそプレイヤーと一緒に本作を初見で楽しんだ可能性がありますが、2人目以降を視聴する際は確実にネタを知った上で見ることになるでしょう。この「初見殺しネタを知っている」が愉悦に繋がるのです。加えて企業VTuberさんは同じゲームの配信を複数名が行うことが多くより顕著なのだと感じます。

 一方で投稿者でないプレイヤーは作品の性質上ソロと考えられるので本人のプレイのようすを共有できず、初見殺しが本当にただ絶望するだけのイジワル要素に受け取られるケースがあるようです。愉悦の流れとしては「プレイヤーが落胆する→それを見る第三者が楽しむ」という2段階が必要になるので、ソロだとその前段階の落胆で止まることになってしまいます。
もちろん苦難を乗り越える楽しさもありますので必ず落胆止まりになるとは限りませんが、低評価が増える要因ではあるでしょう。

 愉悦の流れはOnly Up!ではプレイヤーの落胆からですが、これは他の感情でも起こり得ます。例えばRPGであれば感動から、ホラーゲームであればビックリから…等々。ここで重要になるのはプレイヤーが発したリアクションに対して、視聴者が『あなた(プレイヤー)のその反応を待ってました!』となることです。
ホラーゲームのビックリは視聴者が居らずビックリ止まりになったとしても、落胆よりは比較的受け入れられやすいものなので低評価が増える原因になりにくいです。構造としては似ているのにどうして評価が違うのか…それは始点となるプレイヤーの感情が何なのかにあると考えます。

 Steamレビューの総評価では動画投稿者かどうかは関係なく統合された総数から決まります。上記のような動画投稿の有無という立場上の理由で好評・不評が変わり、「賛否両論なのに売れている」という構図になっているのではないかと推察します。
少なくとも動画投稿者さえ好評であればYoutubeなどで盛り上がる可能性は十分に出てきますし、そこから新たなプレイヤーに繋がれば売り上げ本数は更に増加するでしょう。
ただ、この場合は発売から大きく売れ始めるまでに少なからずのタイムラグが発生します。いずれかの動画投稿者にゲームの存在が認知される→投稿者界隈・視聴者ともにゲームが知られ始める→より多くのプレイヤーが参入→盛り上がる、という流れが必要で時間がかかるためです。実際に本作Only Up!も発売後しばらくしての盛り上がりでしたが、原因がこれなのかは定かではありません…


7/4追記:発売から約40日で、全てのレビュー:6,425件、直近30日間のレビュー:5,812件でした。つまり、最初の10日間→613件で、これを単純に3倍すると1,839件なので後から加速していることがわかります。また、賛否両論からやや好評に好転しました。


マーケティングとして「ターゲット層」は重要な項目ですが、昔に比べ「実況・配信者」というターゲットが明確に”ゲームの楽しみ方や目線が他と異なる”1つの層として力を持っていると感じます。場合によってはその延長線上にいる「(投稿者ではないものの)人の動画を見て既にゲームのネタを知っているユーザー」も、同じように1つの層かもしれません。

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